「心より心に伝ふる花」を目指して
「芦刈」の舞台展開
ここでは「芦刈」を4つの場面に分け紹介します。
写真 平成27年 朋之会 シテ武田祥照
撮影 前島吉裕
1、乳母一行が夫の消息を尋ね難波を訪れる
地謡・囃子方が着座すると、〈次第〉という登場音楽が囃され、都に住むとある上流階級の乳母(ツレ)が従者(ワキ・ワキツレ)を連れ登場します。貧困の為に生き別れになった夫・日下左衛門の行方を尋ねるために難波の浦を訪れるという物語の前提を語り、道行という謡を謡い、難波の浦へと着きます。
里人(間狂言)を呼び出し、その消息を尋ねますが、夫は行方不明になっており、乳母一行は難波の浦に逗留し、さらに情報を集めることにします。里人は、慰みに面白い芸を見せ芦を売る男が居るので見るように勧めます。
2、 蘆売り男の登場
続いて〈一声〉という登場音楽に乗り、笠を被り蘆を持った男(シテ)が現れ、長閑な難波の浦の景色を謡います。続いて、翔という舞事をし、自らの境遇を嘆き、芦を借り、売る日々を謡い舞います。
芦は“よし”とも言い “あし”とも言うと述べながら、乳母の従者に芦を売りこみます。また、折からの難波の沖の景色が古歌とぴったり合致すると言い、古歌を引きながら乳母の従者とともに眺め、興に乗じて被っていた笠を持ち、舞います。
3、夫婦の再会
その様を見た乳母は蘆売る男が夫であると気づき、従者に命じ、芦を買い上げることにします。芦売り男が従者に命じられて輿へ芦を持ってゆくと、輿に乗る女性が自らの妻であると気づき、驚き、恥じ入って民家へ隠れてしまいます。
乳母は夫の元へ行き、夫を想い遥々行方を尋ねてきたことを告げます。夫と妻は互いに和歌を詠みかわし、離れ離れになっていても二人が互いを想っていたことを知り、男は小屋を出て、夫婦は再会します
4、服装を整えた男が喜びの舞を舞う
芦売り男は妻の用意した装束に着替えます。再会できた和歌のめでたさが主に地謡によって謡われ、従者の勧めにより男は喜びの舞を舞い、夫婦連れだって都に帰ります。
●ひとこと解説
芦刈の大きな見所の一つはシテの「芸達者さ」です。シテの日下左衛門は芦を売って生活をしています。いかに言葉巧みに芦を売るのか、ワキとの問答は大きな見所です。他にも笠之段(舞台展開2)や男舞(舞台展開5)などは舞の大きな見所です。
また、この原作の大和物語にあるお話では妻は裕福な新しい夫を見つけてしまい、昔の夫とは再会しても結ばれない事になっています。そういった意味ではこの能は改作されており、夫(シテ)は妻(ツレ)にとってどんなに出世しても再び会いたくなるような「色男」でなくてはいけません。なのでシテの登場した第一声に「足引きの~」と謡った瞬間に「なんていい男なのかしら」と思うようなシテが求められます。